役所づとめのきじばと

ウイングあつかましい言論ゼロカスタム

ゆうと(10)

母は出かけていた。

「すべての恋は裏切りだ」ゆうと(10)の頭にはそんな言葉が言葉にもならず漂っていた。4時には帰らなければならなかった。家に居て、荷物を受け取らなければいけなかった。その任務はなんなく遂行された。なんなく遂行され、急遽新たな任務が言い渡された。「着用せよ」

当初の計画では、月曜の母の居ない時間帯に着ようそしてぼんやり眺めて片付けよう。勉強机の一番下の棚に片付けて、そのあとのことは考えていなかった。むしろ着なくてもよかった。ダンボール箱からとり出して、眺めて片付けたっていい。そんな程度のつもりでゆうと(10)はセーラーちびムーンのコスを購入した。amazonで950円★2個半。コンビニ払いで購入した。

だぼだぼだった。だぼだぼでてろてろだった。だぼだぼでてろてろでがさがさでちくちくだった。とりあえず着てみたはいいものの、ちびうさの着ているものとはまるでちがうものだった。つくりが、まず違った。肝心なところかどうかなど気にも留めていなかったが手元にあるとどうしても気付けてしまう。スカートのなかががらんどうだった。そういえば、レオタードにスカートがくっついていたことを思い出した。ゆうとは一度、全裸になり、ブリーフを履き直した。

ゆうとはyoutubeで変身シーンを1日1回見ることにしていた。「ちびうさ」と音声入力し検索し見た。母のピンクのiphone7で。それ以上は見すぎなのだった。原作もチェックなどしなかった。他の動画も、どうでもよかった。ただぼんやり眺めてどんな順序で変身していくか、BGMはどんなだったかとか、いまだれかに問いただされてもたぶん戸惑う。ただ、最後の顔のアップの自分に似ている瞬間だけが、好きなのだった。そのあとのポーズもなんとなく風呂でとってみたりはしていた。

「見ろ」新たな命令に従い、母の鏡台までいき、ポーズをとった。脇が見えた。裸足だった。足をピンと伸ばしても何か物足りなかった。爪先だちをしてみて、ぐら付いた。鏡のなかに一瞬写った。

母は2時間後に帰ってきてその日のうちに見つかって写真を撮られ、一式更に注文された。